設計事務所を併設した自邸です。住宅と事務所をどのような距離感で共存させるかを考えながら計画しました。家族で共有する場所と個人の場所、仕事と暮らし、内部と外部。それぞれを分けながらも緩やかにつなぐことをテーマにしています。自邸の設計は、これまで手掛けてきた住宅設計とは異なる経験でした。依頼主の要望に応えるのではなく、自ら問いを立て、自ら答えを探し続けるプロセスだったからです。建設費高騰の影響もあり、建物の形や施工方法を工夫しながらコストを調整しました。施工中は現場に通い、各職方の皆さんとの対話を重ねながら細部をつくり込んでいます。この建物は住まいであり仕事場であると同時に、自身の設計を見つめ直すためのプロジェクトでもありました。
~以下詳細説明になります~
住宅と事務所という異なる用途をどのようにつなげるかを考えながら計画を進めました。仕事と暮らし、それぞれが独立しながらも緩やかにつながること。そして建物の内と外、人と人との関係が自然につながることを大切にしています。
敷地の大きさから考えると、住宅と事務所を別棟にすることや平屋にすることも可能でした。実際に計画の初期段階では、別々の建物を屋根だけでつなぐ案も検討しています。しかし、コスト面に加え、視線や空間の変化、上下階のつながりによる立体的な体験を考え、一部二階建てのひとつの建物としてまとめることにしました。その一方で、住宅と事務所それぞれの独立性も大切にしたかったため、両者の間には外部のように使えるエントランスを設けています。この場所は住宅の玄関であり、事務所の入口でもあり、状況によってはテラスのようにも使える中間的な空間です。建物の中と外、住宅と事務所をゆるやかにつなぐ役割を担っています。住宅部分は、家族で共有するコモンスペース(Cゾーン)と、個人のためのパーソナルスペース(Pゾーン)に分けて考えました。下屋部分には事務所とエントランス、そしてLDKを中心としたCゾーンを配置し、二階建て部分には寝室や個室を含むPゾーンを配置しています。それぞれの性格に合わせてボリュームを検討した結果、外壁のラインや外装材も自然と変化し、建物の用途の違いが外観にも表れる形となりました。
外観はできるだけ強い主張を避け、切妻屋根を基本としています。ただし単純な切妻屋根ではなく、下屋部分では屋根の一部を片流れとし、光を取り込みながら二階デッキとの関係をつくっています。建物は見る方向によって印象が大きく変わります。北側から見ると落ち着いた切妻屋根の建物ですが、南側ではそれぞれのゾーンが積み重なってできたような立体的な構成が現れます。
敷地は交通量の多い道路から少し入った場所にあり、北側が道路に面しています。周辺には駐車場や飲食店があり、比較的開けた環境です。そのため通りから見えやすい北側に事務所を配置し、住宅部分は奥へ配置することで落ち着いた居場所を確保しました。また、事務所として来客用の駐車スペースや外部で活動できる場所も必要だったため、建物を道路際まで寄せるのではなく、前面に余白を設けています。その結果、向かいの住宅への圧迫感を抑えながら、建物と街との距離感をつくることができました。一方で南側は住宅地が隣接しています。自敷地も隣地からの影響を受けるため、冬の日差しをどのように取り込むかを重視しました。住宅のコモンスペースはできるだけ日射を確保できる位置に配置し、ハイサイドライトも併用しています。また二階建て部分を南側へずらすことで、採光や通風にも配慮しました。こうした検討を積み重ねた結果、建物全体はコの字に近い形となっています。
この敷地は市街化調整区域内の特区にあり、一定量の雨水浸透施設を設けることが条件となっていました。一般的には追加コストとなる部分ですが、建物の周囲に浸透施設を配置し、屋根の雨水を直接導くことで樋や配管を最小限に抑えています。また、雨水の流れを活用してビオトープを設けるなど、必要な設備を単なるインフラとしてではなく、敷地環境の一部として取り込むことを考えました。
住宅内部では、玄関を入るとCゾーンのLDKがあり、その先にPゾーンの寝室や個室へ続く構成とし、二階にはセカンドリビングを設けました。この場所は家の中でも少し特別な場所です。内部空間の奥行きと外部への広がりを同時に感じることができ、家全体の関係を結びつける役割を持っています。内と外と、視線や気配がゆるやかにつながりながらも、それぞれが適度な距離感を保てるようにしています。Pゾーンへの動線と、セカンドリビングに向かう屋根のラインは最適な位置をつなぐように斜めの線で結んでいます。その線が建物の奥行き感や視線をコントロールする役割を加えてくれました。
自邸の設計は、これまで手掛けてきた住宅設計とは異なる経験でした。依頼主の要望に応えるのではなく、自ら問いを立て、自ら答えを探し続けるプロセスだったからです。設計を進める中で、自分はどのような建築をつくりたいのか、どのような価値を大切にしているのかを改めて考える機会になりました。建設費が高騰する中だったため、材料を変えるよりも建物のボリュームや施工方法を工夫してコストを抑えることを考えました。設計ではできるだけ無駄を省き、施工では分離発注やセルフビルドも取り入れています。工事期間中はほぼ毎日現場へ通い、職人さんたちと直接話しながら建物をつくりました。その中で納まりが改善されたり、材料の使い方が変わったりと、図面だけでは生まれなかった工夫が数多く積み重なっています。振り返ると、この建物は自分ひとりで設計した建築というより、多くの人との対話の中で少しずつ形になっていった建築だったように思います。住宅であり、事務所であり、人や場所とのつながりを受け止める器として、これからも時間とともに育っていくことを期待しています。
2025.01 愛知県
事務所併用住宅(木造2F) 新築
建築面積/ 95.25㎡
延床面積/ 119.90㎡ (36.27T)
事務所部分 17.88㎡ ( 5.41T)
共用部分 9.49㎡ ( 2.87T)
住宅部分 92.53㎡ (27.99T)
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